2007年07月13日

グーグル・ブック検索をめぐる著作権論争・ネット時評

グーグル・ブック検索をめぐる著作権論争・ネット時評
http://it.nikkei.co.jp/internet/news/index.aspx?n=MMITs2000013072007
2007/7/13
城所岩生・成蹊大学法学部教授(米国弁護士)


 グーグルのブック検索サービスが日本でも本格的に始動した。7月5日から8日まで東京ビッグサイトで開催された「第14回東京国際ブックフェア」にあわせて、日本語サイトの開設と慶大図書館との提携という二大ニュースを発表した。米国では出版社との提携が2003年12月から、図書館との提携が2005年11月からスタートしているが、図書館プロジェクトについてはサービス開始前に訴訟が提起されるなど、著作権論争を巻き起こしている。(城所岩生・成蹊大学法学部教授)


ブック検索サービスとは

 グーグルのブック検索は、一言でいうと書籍の全文を検索して、ユーザーの興味にあった書籍を見つけ出すサービスである。

 ブック検索のページ(http://books.google.co.jp/)を開くと、ウェブ検索のページと同様、Googleのロゴの下に検索語句を挿入する枠があるだけのすっきりした画面が表示される。枠の下に表示されているのは「検索ユーザーと書籍の新たな出会い」というキャッチフレーズだ。

 ユーザーはウェブ検索と同じように検索語句をタイプする。検索語句と一致する内容を含む書籍が見つかると、その書籍へのリンクが表示される。リンクをクリックすると、書籍についての情報が表示されるが、表示方法は、書籍の著作権の有無、著作権のある場合は出版社との契約内容によって以下の4類型がある(同サイト内「Googleブック検索について」のページより)。

1)全文表示
 著作権が消滅している場合や出版社もしくは著者の許可のある場合は、書籍の任意のページを自由に閲覧できる。
2)部分プレビュー
 出版社もしくは著者の許可のある場合は、書籍の数ページを閲覧できる。
3)スニペット表示
 出版社もしくは著者の許可のある場合は、図書カードカタログのような書籍の情報とともに、検索語句を含む文章の一部がスニペット(抜粋)表示される。
4)プレビューなし
 出版社もしくは著者の許可のない場合は、「プレビューを利用できません」と表示されるが、図書カードカタログなどの書籍の基本情報は表示される。




 書籍の情報が表示される画面にはアマゾンほかオンライン書店へのリンクも張られており、購入が可能だ。そのオンライン書店で本を探す場合との決定的な相違は、ブック検索では検索語句が書籍名にない場合でも、本文内に存在するかどうか確認できる点にある。

 オンライン書店にとっては脅威でもあるが、検索語句が書籍名にない場合でもブック検索が拾ってくれる、と考えれば補完関係にあるともいえる。アマゾンの「なか見!検索」サービスも書籍の内容まで検索するが、対象が「なか見!検索」に同意した書籍に限られる。

 将来的には、グーグルはウェブ検索の検索結果表示にも書籍情報を含める予定という。そうなると、ネット上に情報を求めてきたユーザーの欲しい情報が書籍にあれば、彼らの需要も掘り起こせるというメリットをオンライン書店は期待できる。キャッチフレーズの「検索ユーザーと書籍の新たな出会い」が生み出すであろうこうした新たな需要に対して、グーグルが手数料を徴収しない点もオンライン書店にとっては魅力だろう。

 街の書店とも補完関係はある。「地域の書店を探す」という表示をクリックして、地名を入れると、グーグル・マップ上に書店の場所が表示される。将来的には在庫状況も表示する予定という。これにより、実物を見て購入するかどうか判断したいというユーザーや一刻も早く読みたいというユーザーの要望に応えられるわけである。

 書籍を図書館から借りたいというユーザーは、「図書館(英語)でこの書籍を探す」という表示をクリックして、地名を入れると、所収している近くの図書館がリストアップされる。ただし、「図書館(英語)で……」という表示のとおり、現時点では検索、結果表示とも英語である。


図書館プロジェクト

 グーグル・ブック検索は、二つの方法で書籍をスキャンし、デジタル化している。「パートナープログラム」によって、出版社から書籍を提供してもらう方法と、「図書館プロジェクト」によって、図書館から書籍を提供してもらう方法である。今回、わが国ではじめて図書館プロジェクトに加わる慶応大は、三田にある慶応義塾図書館の200万冊以上の蔵書のうち、創業者福沢諭吉の著書など著作権の切れた12万冊をデジタル化する。

 慶応義塾図書館は、世界的に見ると図書館プロジェクトに加わった26番目の図書館である。2005年11月のサービス開始時には、英米の5図書館が参加していた。数こそ5つだけだったが、ハーバード大、スタンフォード大、ミシガン大、オックスフォード大の図書館にニューヨーク市立図書館と、いずれも大図書館ばかりだった。

 実はグーグル・図書館プロジェクト開始直前の2005年10月、検索サービスでグーグルを追うヤフー、マイクロソフトも相次いで図書館構想を発表した。世界中の書籍についての情報を独占すれば、検索サービスのアクセス数を飛躍的に増加させ、そこから新しいビジネス・チャンスが生まれる可能性は十分ある。グーグルによる世界の書籍情報独占、ひいては検索サービス一人勝ちを阻むべく、ヤフー、マイクロソフトとも追随したわけである。


ブック検索をめぐる訴訟

 図書館プロジェクト開始前の2005年9月、米国において、作家協会(Authors Guild)と全米出版社協会 (Association of American Publishers)は、著作権侵害を理由にグーグルを訴えた。図書館プロジェクトでまだ著作権が切れていない書籍が提供された場合、ブック検索による表示方法は前述の(2)「スニペット表示」となり、検索ワードを含む数行の引用がなされるだけだ。しかし両協会は、そもそも図書資料をスキャンすることが著作物の複製にあたるとし、著作権が切れパブリックドメイン(公共財産)になったわけでもないのに書籍の複製を著作権者の同意なしに行うことは、著作権者の複製権を侵害すると主張した。これに対して、グーグルは図書館の資料をデジタル形式で複製、蓄積し、その一部を閲覧できるようにすることは、著作権法上認められたフェアユースにあたると反論した。マグロウヒルなどの出版社も2005年10月に同様の訴えを提起している。

 グーグルを訴えた作家協会と全米出版者協会は、ヤフーとマイクロソフトの図書館計画に対しては提訴していない。いずれも著作権保護期間切れのパブリックドメインの書籍しか対象にしていないからである。

 統計によって多少の違いはあるが、図書館の書籍のうち、著作権が明確なのは5〜10%以下、著作権の保護期間が切れて、パブリックドメインになっているものもせいぜい20%、残りの70〜75%以上は著作権について不明なもの、と言われている。

 この不明な著作物は「孤立作品(Orphan Works)」と呼ばれ、著作者の死亡年がはっきりせずパブリックドメインに帰属しているかどうかが分からないものや、著作権の保護期間内だが遺族や権利を譲渡された者の所在が不明なものなどが含まれる。

 図書館プロジェクトで、対象書籍をパブリックドメインの図書に限るか、著作権のある書籍や孤立作品まで含めるかはそれぞれの図書館との契約による。先に述べたように図書館がパブリックドメイン以外の作品を提供した場合はスニペット(抜粋)のみが表示されるが、著作権者がそれすら望まない場合は、グーグルに通知すれば、グーグルはブック検索の対象から外してくれる。いわゆるオプトアウト方式で著作権者への配慮を示すことによって、著作権のある書籍や孤立作品までカバーしようとしているわけである。

 グーグルが法的リスクを取ってでも、パブリックドメイン以外の領域に踏み込むのは、企業ミッション達成とソロバン勘定の両面からだろう。

 まず企業ミッションだが、グーグルの理念は世界の情報を体系化して、利用可能にすることにある。検索サービスでネット上の情報をアクセス可能にしたので、次は書籍情報をカバーしようというのがブック検索サービスに参入した理由だが、書籍情報の75%以上を占める孤立作品が欠落しては、企業ミッションを達成できない。

 そしてリターンについて。訴訟で勝てれば、図書館の70〜75%以上の書籍をカバーするパブリックドメイン外の市場で先行することができ、検索サービスでライバルに対して圧倒的優位に立つことができる。


グーグルの抗弁

 わが国の著作権法では、著作権が制限される場合を個別に列挙しているだけなので、それらに該当しなければ、どのような行為も著作権侵害となる。対称的に米国著作権法は、著作権者の排他的権利に対する一般的な例外条項として、フェアユースの抗弁を認めている。裁判所が著作権法に定める4要素(使用目的、著作物の性質、引用の量、市場に与える影響)を判断してフェアユースであると認めれば、著作権侵害にならない。

 グーグルはウェブ検索サービスに関しても、著作権侵害で2件の訴訟を提起されたが、いずれもこのフェアユースの抗弁が認められて、勝訴している。ウェブ検索では索引作成のためにグーグルのロボットが、ウェブサイトを定期的に巡回してウェブページの情報を収集し、グーグルのドキュメント・サーバーに一時保存(キャッシュ)する。原告はこの一時保存が著作権侵害にあたると主張したが、裁判所はグーグルのフェアユースの抗弁を認めた(詳細は国際商事法研究所発行「国際商事法務」2007年6月号掲載の拙稿「検索エンジンと米国著作権法(中−2)」参照)。 

 ブック検索の場合、書籍のスキャンは一時保存ではなく、永久保存になる。しかし、ウェブサイトは頻繁に更新されるという特性があるから、ロボットが定期的に巡回し、次回巡回時まで一時保存しているが、ウェブページが存続する限り直近の巡回時点の情報を常に保存している、という意味では、情報更新のない書籍の永久保存と大きくは変わらない。ウェブ検索のとき、2件とも裁判所は、この一時保存をフェアユースと認定したので、ブック検索でも索引作成のための中間複製がフェアユースと認められる可能性は十分ある。ただし、ウェブ検索のときの判決はネバタ州とペンシルバニア州の地裁判決なので、ブック検索に関して訴訟が提起されたニューヨーク州連邦地裁に対する拘束力はなく、同地裁が異なる判断を下す可能性もなくはない。

 訴訟提起から2年近く経過しているにもかかわらず、まだ地裁判決も出ていないが、グーグルは書籍をスキャンし、デジタル化する作業を着々と進めていることから、早期決着を図るべく、和解する可能性も十分あると見られる。

このコラムは日経デジタルコアによって企画・編集されています。
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